63.1%という驚異の進学率の理由―学研WILL学園が実践する不登校・発達障害支援の最前線

近年、不登校児童・生徒数は過去最多を更新し続け、また発達障害の診断を受ける子どもたちも増加傾向にあります。こうした状況の中、従来の学校教育では十分なサポートを受けられない子どもたちの学びの場として、フリースクールや通信制サポート校が注目されています。

学研WILL学園は、2000年の設立以来、不登校や発達障害・グレーゾーンの傾向がある生徒に特化した教育支援を行ってきました。教職員自身も不登校経験者が多く、生徒一人ひとりの気持ちに寄り添った少人数制教育と、社会での自立を促す独自のアプローチで、多くの生徒たちの成長を支えています。今回は事業部長の佐藤 佑一郎氏に、その独自の取り組みについて詳しくお話を伺いました。

不登校・発達障害の生徒に特化した教育支援

―学研WILL学園について、まずは概要を教えていただけますでしょうか?

佐藤 佑一郎 事業部長学研WILL学園は、主に不登校のお子さんや発達障害の傾向を抱えるお子さん、また発達障害の診断は出ていないものの学校の集団生活に困難を感じているいわゆるグレーゾーンのお子さんを対象としています。業態としては、学校に行きづらい子向けの学校というようなフリースクールと、通信制高校の分校としてのサポート校という立ち位置で運営をしています。

“家庭教師”から始まった不登校支援の歴史

―設立の経緯について教えていただけますでしょうか?

佐藤:2000年の開校当初、私たちは学研の家庭教師サービスの中で不登校支援コースを運営していました。その中で、元気を取り戻した生徒たちの通う場所や、お友達を作れる居場所が必要だという声が増えてきたことから、通信制のサポート校を設立しました。

その後、問い合わせの低年齢化に伴い、2004年には中学生も対象としたフリースクールを併設しました。不登校の子どもたちの特徴や学校に行きづらくなる理由は、この20年間であまり変わっていないと感じています。

むしろ、社会の理解が進み、かつては「登校拒否」や「学校恐怖症」と呼ばれ、子どもたちが拒否している状態として捉えられていたものが、今では「不登校」という言葉に変わり、子どもたちの気持ちに寄り添った表現になってきています。

当学園で受け入れている生徒の多くは、真面目なタイプや性格が優しすぎるお子さんです。心理学的には「二極思考」や「白黒思考」と呼ばれる特徴を持っており、先生からの指示に対して完璧にやらなければ気が済まない、少しずつ自分のペースで進めることができず、うまくいかないとすべてを投げ出してしまう傾向があります。

生徒一人ひとりに寄り添う少人数制教育

―他のフリースクールにない特徴やアピールポイントを教えていただけますでしょうか?

佐藤:フリースクールは大きく4つに分類できます。まず「体験型」は、古民家や乗馬クラブなどで体験活動を中心に行うタイプです。次に「居場所型」は、マンションの一室などでカリキュラムを設けず、自由に過ごせる場所を提供するタイプです。

学研WILL学園が該当する「学校型」は、きちんとした時間割があり、遠足や合宿など勉強以外にも学齢期の子どもたちに体験してほしいプログラムを提供しています。最近では「オンライン型」も増えており、当学園でもメタバースキャンパスを設置しています。

最大の特徴は少人数制で生徒との距離が近いことです。大規模拠点である高田馬場、名古屋、大阪でも全校生徒が60~70名程度で、1学年10名ほど。その他のキャンパスは全校生徒20~30名程度です。ただ、実際の一日の登校生徒数は在籍生徒数の半分ほどとなっております。これに対して教職員は、大規模教室で14~15名を配置し、生徒5~6人に対して1人の割合で指導を行っています。

また、行事や課外活動は基本的に自由参加制を採用しています。例えば、外出を伴う遠足は難しくても、キャンパス内でのお菓子パーティーなら参加できるという生徒もいます。自分のペースで少しずつ成長していけるよう配慮しています。

学研の家庭教師のノウハウを活かした在宅コースも大きな特徴です。一般的な通信制学校の在宅コースがビデオオンデマンドの録画授業を24時間見放題で提供するのに対し、当学園では教職員が家庭訪問を行い、きめ細かな支援を提供しています。

私自身も不登校を経験しており、当時はフリースクールはあっても、家庭訪問型の支援はほとんどありませんでした。家から外に出ることに大きなハードルを感じていた経験から、そうした生徒の背中を押せる存在になりたいと考えています。

社会的自立を目指した教育方針

―生徒さんに接する際に特に意識していることや方針などがあれば教えてください。

佐藤最も強く意識しているのは、生徒たちが社会に出た時に自立して生活していけるようになることです。これは当学園の教育理念にも掲げられており、「真に自立した人間の育成」を目指しています。

学校に行きたくないという気持ちは自由ですが、将来社会に出た時には必要なスキルを身につけておく必要があります。外で働くことが苦手な場合は、在宅ワークなどで生活費を得るためのスキルを習得する必要がありますし、コミュニケーションが苦手な場合は、社会で通用する最低限のコミュニケーション力を身につける必要があります。

また、レポート課題の提出期限を守ることや、やっていいことと悪いことの境界線を理解することなども重要です。こうした指導の成果は、生徒たちの成長に確実に表れています。

例えば、入学時は完璧を求めすぎて何もできなかった生徒が、卒業時には「こんなもんでいいんだよ」と後輩に教えられるようになるなど、良い意味で”適当”になっていきます。このバランス感覚の習得こそが、大きな成長の証だと考えています。

柔軟な学習スタイルに対応する多様なコース設計

提供しているコースやプランについて詳しく教えていただけますでしょうか?

佐藤:まず学年別に、初等部課程(小学6年生)、中等部課程(中1~中3)、高等部課程(高1~高3)、進路準備課程の4つに分かれています。ただ、進路準備課程は、WILL学園で高等部を卒業した生徒だけを対象としており、高校卒業後すぐの進学や就職に不安を感じる生徒向けに、就労移行支援や大学進学準備を行う特別なコースです。

通学頻度による区分では、週5日通える総合コース、週3日の選択コース、週3日通学+月2回の家庭訪問がセットになった特選コース、そして月4回の家庭訪問を行う在宅コースがあります。水曜日は自由登校日として設定し、行事や自主学習、コミュニケーションの時間に充てています。

初等部(小学6年生)については、特殊なコース設計を採用しています。週1回の通学と水曜日の自由登校日で構成される小学コースのみを設置し、通学時は90分間、教職員が1対1で指導を行います。これは中学生・高校生向けの授業と同時に行うことで生じる混乱を避けるためです。全体行事の際は、補助教員が付き添って参加できる体制を整えています。

コース選択の傾向としては、選択コースが全体の約50%を占めており、多くの生徒は入学時に選択コースや在宅コースからスタートします。その後、行事などで友達ができたり、教職員との信頼関係が深まったりすることで、徐々に通学頻度を増やしていく傾向にあります。

高校2年生では、アルバイトとの両立のために敢えて選択コースを選ぶ生徒も多くいますが、高校3年生になると進学準備のため総合コースを選択する生徒が増えるのが特徴です。

個別最適化教育へのこだわり

―今後、より注力していきたい点があれば教えてください。

佐藤:通信制高校やサポート校が乱立する中で、オリジナリティの追求は重要な課題です。ベネッセやNTTなど大手企業の参入も予定されており、独自性の確立が急務となっています。

そこで、難関大学進学、プログラミング、ビジネス・起業向けなど、様々な特別オプションクラスを設置し、外部講師も招いて専門的な教育を提供しています。しかし、最も大切にしているのは生徒一人ひとりと向き合う姿勢です。

今後、キャンパス数は拡大していく予定ですが、少人数制は必ず維持します。個別最適化された教育指導の提供にこだわり続けることで、他校との差別化を図っていきたいと考えています。

少人数制にこだわる理由

―大規模校と少人数制の違いについて、詳しく教えていただけますでしょうか?

佐藤:大手の通信制高校では1学年100名以上、全校で2万人規模の生徒を抱えるところもあります。1つのキャンパスでも200~300名の生徒が通う大規模校では、教職員1人あたりの担当生徒数が多くなり、どうしても画一的な教育になりがちです。

一方で、そうした「学校らしい」運営を求める生徒もいます。しかし、当学園が主に受け入れている不登校や発達障害の生徒たちには、大規模な環境はそぐわないケースが多いのです。

例えば、聴覚過敏のある生徒は、大人数のクラスの騒がしさに耐えられません。また、自閉スペクトラム症の傾向がある生徒は、こだわりが強く、人間関係の構築に苦労することがあります。「親友だから」と密着しすぎたり、約束の時間が少しでもずれると激しく混乱したりすることもあります。

集団が大きくなればなるほど、そうしたトラブルの頻度も増えていきます。社会に出るための練習として、まずは少人数の環境で段階的にステップアップしていく。それが当学園の果たすべき役割だと考えています。

教育の本質は一人ひとりの「理解」から

―最後に、フリースクールへの入学を検討している方へメッセージをお願いします。

佐藤:学校に行きづらい時や発達障害の傾向が分かった時は、とても孤独を感じると思います。「こんな悩みを抱えているのは自分だけじゃないか」「誰も理解してくれないんじゃないか」という不安に駆られることも多いでしょう。

しかし、当学園には同じような経験を持つ教職員が多く在籍しています。教員免許保持者はもちろん、心理師や児童福祉分野での経験者も揃っています。生徒の約9割が不登校経験者であり、3~4割が発達障害や起立性調節障害を持っています。学研WILL学園には必ず、あなたの気持ちを理解し、共感してくれる存在がいます。

また、支援に重点を置きながらも、大学進学率は63.1%と高水準を維持しています。これは一般的な通信制高校の進学率約24.1%を大きく上回る数字であり、『教育の学研』として「支援」と「教育の質」の両立を実現できている証だと考えています。

発達障害という診断やラベリングにとらわれる必要はありません。私たちが大切にしているのは、その子がどんな特性を持っているのか、どんなサポートを必要としているのかを丁寧に理解すること。マス目のノートを使うことで読み書きの苦手を克服した生徒、定期的なリマインドで少しずつ自己管理ができるようになった生徒など、一人ひとりに合わせた支援で、確実に成長は実現できます。

「普通」という言葉で片付けられない個性の輝きを、私たちは数多く見てきました。完璧を求めすぎて動けなかった生徒が、程よい「いい加減さ」を身につけて社会で活躍する。几帳面すぎて息苦しかった生徒が、自分らしい生き方を見つけて笑顔になる。そんな「小さな奇跡」が、この学園では日々起こっています。

教育の本質は、一人ひとりの可能性を最大限に引き出し、社会で自立して生きていく力を育むこと。それは決して「普通」の型にはめることではありません。あなたの「今」を受け止め、あなたらしい「未来」を一緒に探していく。学研WILL学園は、そんな伴走者でありたいと考えています。