日本の伝統文化である墨絵は、専門的に教える機関が少なく、シニア層の趣味というイメージが強い分野です。しかし、世田谷区の墨絵教室『はじめの一歩 墨絵教室』では、小学生から大人まで幅広い年齢層が墨絵を楽しんでいます。今回は墨絵の魅力や教室運営にかける想いについて代表の古川玲秀さんにインタビューしました!
サービス概要
ーまずは「はじめの一歩墨絵教室」ではどのようなサービスを提供されているのでしょうか?
はじめの一歩 墨絵教室は墨絵に興味のある方を対象とした墨絵教室です。「はじめの一歩」という教室名には、墨絵を通じて新しい一歩を踏み出すきっかけになってほしいという想いを込めています。現在は世田谷大蔵、横浜上大岡、横浜菊名、南林間の4つの拠点で教室を運営しており、特に世田谷の自宅教室では、生徒さんのライフスタイルに合わせて指導時間を柔軟に対応しています。
また、海外の方向けに特別なカルチャープログラムも用意しています。砧公園の竹林散策と墨絵体験を組み合わせた3時間のツアーでは、実際の竹林を観察した後で墨絵に挑戦していただくなど、日本文化を総合的に体験できる内容となっています。
設立の経緯
ー教室設立に至った背景について教えていただけますか?
古川さん:私自身、以前は一般企業に勤めながら、趣味として墨絵を学んでいました。その頃から季節ごとにワークショップを開催し、墨絵の魅力を多くの方に伝える活動を続けていたのですが、2017年4月、勤務していた会社が遠方に移転することをきっかけに退職し、長年温めていた教室開設を決意しました。
この決断の背景には、墨絵を取り巻く環境への問題意識がありました。現在、書画のコースが京都芸大の通信教育で始まったものの、墨絵を専門的に教える芸術大学や美術大学はほとんどない状況です。そのため、墨絵はシニア層の趣味という印象が強く、若い世代への継承が課題となっています。
とはいえ墨絵には他の絵画にない魅力があります。墨と水と紙さえあれば、場所を選ばず描くことができ、書道のようにお手本通りに描く必要もありません。この気軽さと自由な表現の可能性を活かし、より多くの方、特に若い世代に墨絵の素晴らしさを伝えたいという想いで教室を開設しました。
教室としての特徴
ー他の教室とは異なる、はじめの一歩ならではの特徴を教えていただけますか?
古川さん:当教室の最大の特徴は、「1dayレッスン」制度です。これは、入会を決める前に気軽に墨絵を体験していただくためのシステムで、1回の体験で必ず作品を完成させることができます。実際に、親子(小学生のお子様とお母様)、小学生からご年配の方まで、多くの方にご参加いただいています。若い男性の方も多く、非常に驚いています。こちらの体験を受けて、通常レッスンに入会される方もいますが、体験だけでもOKです。
レッスン時間は基本的に2時間を設定していますが、作品の完成度や受講者の希望に応じて、最大3時間程度まで柔軟に対応しています。この柔軟な時間設定により、一人一人の進度に合わせた丁寧な指導が可能な点も特徴の一つです。
また、年に2回の世田谷文化祭への出展や、世田谷美術館区民ギャラリーでの作品展開催を行っている点も特筆すべきポイントです。特に作品展については、普通なら軸装費用や出品料が必要となりますが、当教室では全て無料で参加いただいています。生徒の皆様には作品(教室で仕上げた色紙の作品)を預けていただくだけで、キャプション作成から展示まで全て教室側で対応し、できるだけ生徒さんに負担なく作品発表の機会を持っていただけるよう工夫しています。
生徒さんと接する際に意識しているポイント
ー指導の際に特に大切にされていることはどのようなことでしょうか?
古川さん:最も大切にしているのは、「絵に正解や間違いはない」という考え方です。特に小学生など若い生徒さんは、自信が持てない方が多いのが現状です。そのため、人の作品を過大過小評価したり、自己表現を否定したりしないよう、常に指導しています。
また、墨絵の特徴として、初めての方でも比較的スムーズに作品を仕上げられる点があります。油絵など他の絵画技法と比べてハードルが低く、特に先入観の少ない海外の方々が素晴らしい作品を描かれることも多いです。
このような特徴を活かし、生徒さんが自由に表現できる環境づくりを心がけています。例えば、花の描写でも、自然の基本的なルール(例:5枚の花びらを6枚に増やさないなど)さえ守っていれば、あとは自由に表現していただいています。また、作品に押す雅印の位置なども、生徒さん自身で考えていただき、その過程で美術館での作品鑑賞の視点も深まっていくような指導を心がけています。
料金体系
ー受講を考えている方のために、料金について詳しく教えていただけますか?
古川さん:まず1dayレッスンは、レッスン料4,000円と材料費他500円の合計4,500円で体験可能です。(HPからご予約ください。)その後、継続を希望される方は、入会金3,000円をお支払いいただく形となります。月謝は通常のレッスン料3,500円と材料費他500円の合計4,000円です。(お休みされる月はお月謝をいただいてません。)
筆などの道具については、書道で使用していた物など、お持ちの道具があればそのままご使用いただけますが、テキストは3冊セットで購入していただく必要があります。
今後の展望
ー今後の活動についてどのようなビジョンをお持ちですか?
古川さん:最も大きな目標として、海外でのワークショップ開催を考えています。現在の生徒さんの中には、海外在住のご家族やお知り合いがいらっしゃる方も多く、そういったつながりを活かして墨絵の魅力を国際的に発信していきたいですね。
具体的には、現地で会場と参加者を集めていただき、私が出向いてワークショップと小規模な作品展を開催するというプランを検討しています。これまで教室に来てくださった海外の方々の反応を見ていても、墨絵は国際的にも十分受け入れられる可能性があると感じています。
また、現在実施している世田谷美術館区民ギャラリーでの作品展も、今年で4回目を迎えます。この活動をさらに発展させ、より多くの方に墨絵の魅力を知っていただける機会を創出していきたいと考えています。
小学校のサマースクールや授業などで、小さい頃に墨絵を描く機会を増やしていくのと共に生涯学習などで年配の方の「人生の生きがい」として、墨絵がお役に立てないかと模索中です。
記事を読んでいる方に向けたメッセージ
ー最後に、墨絵に興味を持たれた方へメッセージをお願いします。
古川さん:「絵心がない」と思っている方こそ、ぜひ一度墨絵を体験していただきたいと思います。当教室には、絵を描くことに自信のない方が多く来られますが、墨絵の持つ自由さと、少ない道具ではじめられる気軽さに、皆さん驚かれます。
レッスンを重ねる中で、生徒さんから「道端の花をよく見るようになった」「美術館での絵の見方が変わった」という声をよくいただきます。墨絵は単なる趣味としてだけでなく、日常生活に新しい視点や潤いをもたらしてくれるものだと実感しています。
また、作品展では出品料や色紙の作品で(軸装費用をなくし)、生徒さんの負担を最小限に抑えながら作品を展示する機会を設けています。これは私自身の経験から、作品を発表する喜びをより多くの方に知っていただきたいという思いからです。ぜひ一度、墨絵の世界に触れていただき、新たな発見や小さな幸せを見つけていただければと思います。